体育科卒銀行員経由のアントレプレナーのreport

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火花

火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

芥川賞直木賞の違いを今回の件で学んだ。 芥川賞は純文学、直木賞はストーリー性、といった感じだろうか。
「今朝目覚めて私は妻と一緒に会社へ向かった。」 芥川賞っぽく書くと、
「妙に騒がしい、うっすら目を覚ますと子どものいつもよりテンションの高い声が私の鼓膜を揺らす、という夏の風物詩。今日から小学生は夏休みに入ったらしい。薄ぼんやりとした意識の中で子どもの頃の記憶が蘇り私も少し嬉しくなった。 私の仕事が近場だけの時は妻も私と同じ車で出勤することがある。朝食をとらない習慣は銀行員時代の余裕のない朝からもう5年も続いている。慌ただしい朝の時間の中で新聞に目を通しシャワーを浴びて着替えたら出勤だ。あと30年はこの生活を送ることになるという事実に対する思案などこの時間の中では全く考えが及ばない。 出発してからいつも通りの渋滞に襲われ、私は毎日選択を迫られる。距離は走るが渋滞しない抜け道か、渋滞はするが距離は短い国道か。この答えについてはいつか一度検証してみたいと思っては忘れ思っては忘れで早5年である。」 「曲がろ」 という声が助手席から聞こえ、妻と今日は一緒に出勤しているのだと気づくまでにそれほど時間はかからなかった。
こんな感じだろうか・・この調子で147ページである。   主人公が先輩神谷への弟子入が叶い、自分の伝記を書くように言われた後の花火の打上がる夜道の描写 → 「宿に帰る途中でコンビニに寄り、いつもより少し高いボールペンとノートを買った。涼しい風の吹く海沿いの道を歩きながら、どこから書き始めるかを考えていた。見物客は宿に収まりきったのか、人影はまばらで波音が静かに聞こえていた。耳を澄ますと花火のような耳鳴りがして、次の電柱まで少しだけ走った。」 主人公の心が弾むような心境を心地よく描けている。   ストーリーだけを追うように読むのではこの作品にあまり価値はない。 じっくりと言葉のチョイスや心理描写の比喩などを楽しみながら読むと通にはたまらない作品だ。 莫大な読書量も納得の実力作だ。ただ単に芸人が書いた話題性重視作とはいえない。 次回は恋愛ものなどを手掛けると読者をよりひきつける作品になるのではないだろうか。 楽しみである。