体育科卒銀行員経由のアントレプレナーのreport

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捨てられる銀行

 

捨てられる銀行 (講談社現代新書)

捨てられる銀行 (講談社現代新書)

 

 

橋本卓典(共同通信社経済部記者) 著

日下智晴(金融庁 地域金融企画室室長)講演内容

 

コロナの影響が一日も早く収束することを願いつつ、最近は融資、助成金の情報をお届けさせていただいております。

我々も対面による営業が停止されて2週間が経ちます。在宅時間が長いので、受験生の子どもと「1日5時間の勉強」というテーマを掲げ、目的である、知識習得によるお客様への貢献を果たすべく過ごしております。

今回は少し長い内容になりますが、銀行を見定める上で非常に重要な内容かと思いますので、是非一読いただければと思います。

結論を先にお伝えすると、AIが台頭している昨今、低金利以外の価値提供ができないと捨てられる銀行になってしまいますよ、という内容です。

 

前の金融庁長官である森信親氏が2015年金融庁長官就任後、これまでは金融機関が破綻しないために目配りするための監督官庁だった姿から、その任務にとどまらず顧客企業の成長を最終的な目標として掲げた。これは省庁の利益を優先しがちな行政としては異例のスタンスだった。

これまでは不良債権比率1、2%程度と低くなっているにも関わらず、かつての不良債権比率8%の頃と同じように、地域経済、企業の発展は二の次で回収見込のない貸出を減らすか、回収できない場合に備えて損失処理を迫ることばかりやってきた。安全な銀行を作るだけに満足して、違和感があっても誰も変えようとしてこなかった。

地銀が守られても地域の企業が元気でないと、雇用も失われ、益々都市部への人口が流出してしまう。地域の経済が良くなることと、金融機関が良くなる事の両立が本来は必要だ。

それにも関わらず、苦境に陥っていくのがわかっていながら、地元顧客を顧みない取引関係を繰り返している事が少なくない。しかも金融庁に対しても面従背腹で、どうにかおざなりに金融庁検査を終えたいという一心だ。

これまでは金融検査マニュアルに基づいて融資をしていたわけだが、これは過去の財務諸表に対する評価に過ぎず、今後は事業の成長性にフォーカスをする「事業性評価」が重要だというのが今の金融庁の姿勢だ。

この取り組みに当たって、森長官は広島銀行の現役銀行員である日下智晴氏を金融庁へ起用するという異例の人事を行っている。日下氏の講演内容については後半触れるが、彼は地元の酒蔵に生まれ、将来を約束された立場だったが、祖父の助言で地元経済の為に地銀である広島銀行に就職した。現在の事業性評価の礎となる定性評価を導入して、金融庁からも優れた取組として表彰された人物だ。

金融検査マニュアルは1999年に抜本的な不良債権処理を断行する為の経済対策として策定された。これは財務諸表による債務者区分(格付評点)に則り、不良債権を出さないように顧客を管理することで、これにより銀行は金融庁から指摘されないような経営に完全にシフトしてしまった。金融検査マニュアルで債務者区分が悪化すると、銀行は引当金を積み増す必要があり、銀行の決算が悪くなる、これを恐れていたわけだ。

そして問題なのは、引当と融資判断が混同された点と、保証協会の存在だ。保証協会付の融資にすれば、銀行は貸し倒れても融資金を保証協会から保証される為安心し目利き力を失ってしまった現実がある。

2002年に金融検査マニュアル改定以前は、正常運転資金は手形貸付による短期継続融資(いわゆる短コロ)を用い、設備資金には長期貸付を充てるのが一般的だった。

しかしこの改定により短コロも実質返済がなされない不良債権として厳格な見方をされ、本来は短期の運転資金であっても保証協会付の長期貸出への切替が相次いだ。

これによりかつての短コロの更新のたびに顔を合わせ茶飲み話をし、工場の見学や技術説明を交わすといった機会が激減し、地銀マンの足腰が弱まり、保証協会によって本来銀行が果たすべき事業再生がなされなくなってしまった。

銀行の貸し渋り貸しはがしを防止するためにできた保証協会制度は、それと引き換えにバンカーに必要なリスク感覚、事業、企業本来の価値を査定する力を失わせてしまったのだ。

それから13年、2015年に短コロが復活し、金融庁は取引先との対話を深め、関係の構築をしようと試みているか銀行を確認すると方針転換した。

この13年間、長期貸出にしてあることにより担保保証の確認が重視され、銀行は顧客先へ足を運ばなくなり、低金利を武器に貸出規模を競っていれば安心だと誤解してしまった。

そして重要なこととして、事業者は貸し渋り貸しはがしから解放されたのと引換に、約定返済により資金繰が悪くなってしまったのだ。この点については行政側も理解が及んでいない。

同時に銀行は担保、保証に依存し、短期的な利益にならない事業再生に背を向けた。いわば地銀が地銀であることを放棄してしまったのだ。

事業再生に力を入れていないのはサービサー(債権回収)に送り込まれる人事を見ていれば容易に想像できる。預金者保護と債権保全の奥に身を潜め、事業再生を行わないのは、地域が壊れていくのを遠めに眺めているのと同じだ。

事業再生を語ると、「新陳代謝」という言葉が聞かれる。再生見込みのない企業を倒産、廃業させ、成長力のある企業に労働力を転換させたり、М&Aを活用し、再編吸収で解決するという考え方がそれだ。しかし、人口減少が加速する時代において新陳代謝の一言で地方創生が実現するだろうか。

地域金融機関は、地域リスクを背負う覚悟はサラサラなく、倒産、廃業、М&A失敗、そして雇用喪失となってしまうのではないか危惧されてならない。M&Aという選択肢は残しながらも王道は事業支援、事業再生に尽くす事が地域金融の本分ではないだろうか。

こんな時代にあって地域金融の問題に対し、自ら問題意識を持って改革に取り組んでいる地域金融機関があるので紹介する。

稚内信用金庫「北海道」

人口減少、漁業の衰退と問題を抱える地域において、金融機関平均13%の自己資本比率が驚異の60%。額にして500憶の自己資本を誇る。事業支援、再生を徹底し、相応の金利収入を得ている成果だ。

こんなエピソードがある。当時の理事長井須氏は20年目のスカイラインに乗り続けた。ある延滞が続く事業者との交渉で当時の常務増田氏が劣勢の際、担当者に「理事長よりも随分良い車に乗っておられますね、と言いなさい」と背中を押し、返済に対する話を真剣に聞かせた。

後任の理事長指名では井須氏は増田氏に「5年、10年で辞めるつもりなら断ってくれ」と打診し、商工会の会頭は就任前の増田氏に「おめでとう。で、あたたの後任は誰なのか?それが地域にとって一番重要なんだ。」と当然にように言ったという。増田氏はまだ住める自宅をわざわざ取り壊し、ローンを組んで地元に住み続ける覚悟を示し、今もローン返済中だ。

きらやか銀行「山形」

本業支援を旗印に、2015年にはリテール店舗の統合等を行った。全店舗協調で取引先を紹介を行い、財務支援を行う。また小規模事業者に対してもおにぎり屋の担当はそのおにぎりの全種類を食べ寸評し新商品の提案を行い、畳屋の担当は過去の販売データを整理し、張替時期のタイミングが一目でわかるようにして営業のタイミングを見える化した。

こうした本業に専念した経営を継続した結果、他行の低金利の提案に対しても借換される確率が明らかに低下していることがわかっている。

 

最後に日下氏の講演内容について触れたい。

9000社にメインバンクはあたなの経営課題を聞いてくれますか?その経営課題に対して解決策を伝えてくれますか?その内容に納得感がありますか?というアンケートを金融庁は行った。この答えが3問ともYESであれば、事業性評価が行われているとしたものだ。結果53%が該当し、今後も取引を続けたいと回答した。

一方地銀に取引先に事業性評価をしていますか?とアンケートを取ると18%しかしていないという分析結果が出た。これは何を意味するか。

すなわちメイン先に対しては事業性評価を行っているが、メイン先以外には行っていないということがわかる。このことから銀行の二面性が垣間見える。

また、銀行からの事業に関わる提案で新しい発見がありましたか?という質問に対して、

事業性評価が行われている53%の会社は70%がYESと回答し、事業性評価が行われていない会社は20%しかYESと回答していない。

更に事業性評価をしてもらっている会社とそうでない会社の融資提案応諾率は変わらないという結果も出ており、経営支援サービスの提案応諾率は事業性評価該当先は48%、事業性評価非該当先は28%とこちらは明らかな差が出ている。

この結果は、事業性評価が行われていようがいまいが、融資提案は金利等条件さえよければ承諾するということと同時に、顧客に共通価値の創造が提供できているが重要だといえよう。

この顧客への共通価値の創造、これが令和の地銀のあるべき姿だ。

共通価値の創造の為に、金融庁は以下の改革を打ち出したので、参考にしていただきたい。

・人事ローテーションの緩和(同じ担当が長く同一支店に勤務することの容認)

・事業再生場面においては取引先自社株の100%保有を10年、事業承継場面においては5年間容認。

・営業時間の決定裁量権を銀行に付与(15時に窓口を閉めなくても良いし、土日の営業も容認)

・旧店舗をテナントして使用することの容認。

 

以上、これまでの地域金融と今後の地域金融の監督省庁である金融庁の指針をまとめさせていただきました。

この講演後2019年12月、金融検査マニュアルは廃止されました。

20年前頃、短期ではなく長期借入を推奨された経験をお持ちであれば、それは2002年金融検査マニュアルの改訂の影響だったのでしょう。

2015年短コロ復活となっていますが、銀行からの提案に変化は感じましたでしょうか。

また事業性評価という言葉はお聞きになったことはあったでしょうか。金融庁も変わろうとしていることは確かかと思います。

私も銀行員時代、金融庁検査というと仕事そっちのけで対応する上司の姿を鮮明に覚えていますが、今思えば何の生産性もないことをしていたのだなとわかります。

銀行員が転勤なく長く同一店舗に勤務する時代は果たして来るでしょうか。銀行員はキャリアを積んで出世することに強いこだわりがある人種なので、例えば地方の同一店舗で活躍し、お客さんからは感謝されたとしても、銀行員としては大型店舗、本部を歴任した人の方が明らかに花形ですし、同一店舗に長年いるとなればよほど使えない人材だという見方をされるのが銀行ですから、優秀な銀行員がそういった銀行員人生を望むかというと疑問です。

また金融検査マニュアル撤廃は経営者としてどの程度銀行の変革をお感じになりますでしょうか。残念ながら実態として金融検査マニュアルに基づく格付(債務者区分)は根強く現場に残っており到底無視はできない状況です。

ただ本書が示す地域金融機関としての本来の在り方には大変共感を覚えました。ご融資はできませんが、お役に立つ情報を提供し続けたいと思っておりますし、それが共通価値の創造につながればと思っております。

御社の格付をお知りになりたければお気軽にご連絡ください。今後も宜しくお願い致します。